東京高等裁判所 昭和45年(ネ)552号・昭45年(ネ)3335号 判決
一、被控訴人らは、被控訴人池本が訴外池本直次から本件土地の賃借権の贈与を受けたと主張するので、判断する。原審における被控訴人池本三造の本人尋問の結果(第二回)によれば、亡池本清太郎の家督相続人である訴外池本直次は、昭和二三、四年頃牡丹江から復員して約一年間本件家屋に被控訴人池本と同居し、そこから大塚の消防署へ通勤したが、その後他へ転出したこと、同訴外人は、その間被控訴人池本が本件土地に本件建物を建て同人名義で賃料を支払つているのを見ても何ら異議を云わなかつたことが認められる。以上の事実関係からすれば、訴外池本直次は、家督相続人として本件土地の賃借権を相続したのであるが、自己の出征中被控訴人池本が相続財産を管理し、本件賃借権についても賃料を支払つて権利を維持してきており、しかも相続財産であつた地上の建物は戦災で焼失し、その跡にすでに同被控訴人が本件建物を建てているので、同訴外人は、その頃自己が相続した本件土地の賃借権を被控訴人池本に無償で譲渡したものと解するのが相当である。もつとも右賃借権の譲渡について賃貸人である控訴人の承諾を得たことを認めるに足る証拠はないけれども、原審における被控訴人池本三造の本人尋問の結果(第一回)により認められる同被控訴人が昭和四、五年頃二〇才位のときから亡池本清太郎とともに本件土地の家で家業を営んできた事実、前認定の亡清太郎の死亡後はその婿養子として罹災するまで出征中の家督相続人に代つて右家屋で家業を継続し、又賃料を支払つてきた事実、戦後本件建物を新築したとはいえ、家業を継続している事実からすれば、法律上は家督相続人池本直次から譲渡されたにせよ、事実上は従来の借地関係の継続であつて、賃貸人に対する背信行為と認めるに足らない特段の事情がある場合に該当し、被控訴人池本は、控訴人の承諾があつた場合と同様に本件賃借権の譲受けをもつて控訴人に対抗することができるものと解するのが相当である。
二、過失相殺の抗弁について
前掲乙第三号証、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果(原審は、第一、二回)並びに前記三、(一)認定の事実を総合すれば、本件土地の賃貸人の地位は訴外反町信太郎に承継されなかつたのであるが、控訴人としては同訴外人に承継させるべく種々努力をしたことが認められる。又借地権についてはその土地が転々譲渡される場合を予想して借地権保護のため「建物保護ニ関スル法律」により建物登記により借地権の対抗力を認める制度が設けられている。本件においては原審証人平野きみの証言及び前記本人尋問の結果によれば、控訴人が本件土地を訴外反町信太郎に譲渡する前すでに控訴人においてこれを売却する必要があつて被控訴人池本に買取方の交渉しているのであつて、しかも控訴人の勤務先へ被控訴人池本が訪ねてきた際には、ほかからも買受けの話があるが、買うのか、買わないのか、と云われていることが認められるのであるから、被控訴人池本としては、当然他に売却されることも予想して、自ら借地権保護の措置をとるか、あるいは、もう少し熱意を示して売買交渉を成立させるかすべきであり、右登記の懈怠が本件借地権喪失の大きな原因をなしていることを考えれば、本件履行不能に関しては、被控訴人池本にも過失があるものというべく、その程度は四分ないし四、五分の過失があつたものといわねばならない。
(石田哲 上野正 小林)